切絵に限らずだが、制作活動をしていると、知人や友人から制作を頼まれることは良くあると思う。
作家として、仕事として請け負う以上、ロハは問題外だが、ここで知り合いだからこその問題点がいくつか出てくる。
特に、私が今まで困ったことは「無期限出来高制」の依頼である。
どういうことかというと、とくに急ぎではない依頼の場合、必ず言われるのが
「いつでもいいよ~」ということ。
いや然し、いつでもいいと言われれば、私の場合は死ぬまでやらない可能性が出てくる。
そして「いつでもいい」依頼は、必ずと言っていいほど後回しになり、挙句の果てに忘れ去られる。
依頼者も忘れてくれれば構わないのだが、厄介なのは依頼者は何年たってもしっかり覚えていて、ちょっと会わない間に
「あいつは仕事が遅い、せっかく頼んだのに仕事ができないやつだ」などと思われてしまっている点である。
当方の意図せぬところで、自身の評価を落としてしまって、いつの間にか疎遠になってしまう。
また、知人間の制作だと、代金の設定にも厄介事が付きまとう。
相場がはっきりしていれば良いのだが、作品制作は内容によって金額が上下してしまう。
こちらが勉強した金額を提示しても、相手にとって高いと思われればそれまでで、逆に安すぎる金額の場合、次回もまたその額で請け負わなくてはならなくなり、その依頼主からの仕事が価値の低いものになってしまいかねない。
そして、最悪なのが「作ったものが気に入ればよろしく頼むよ」という依頼だ。
これは制作依頼というよりも、コンペみたいなもので、期限も金額も指定されず、制作内容も全くの自由だったりする。
その人にとって気に入ったものができれば買い取ってもらえる、という趣旨である。
「作家さんは自由に作れた方が気が楽だろう」
と、依頼者は良かれと思いお声かけしてくれたのだろうが、これ以上気が重い仕事は無い。
せめて「猫を描いて欲しい」とか、「洋風でゴージャスな玄関に合う絵が欲しい」とか、ざっくりしたものでも良いので何をして欲しいのかは決めておきたい。
何も決まってないということは、作家は何度も作り直し、何度も依頼者にお伺いを立てる必要が出てくる。
結果として、良かれと思ったことで、手数が何倍にも膨れ上がってしまうことになるのだ。
自由というものほど、作家を苦しめる制約は無いのである。
かつて、友人のつながりで、こうした内容のお話を何度か請けたのだが、残念ながらすべて失敗に終わっている。
何をどう制作したらいいのか分からないまま頓挫してしまい、何年たっても後味の悪い記憶が何件かある。
…制作期限が無いので、今でももしかすれば私の連絡を待っている人がいるかもしれない。
本当に申し訳ないと思う。
結局のところ、そうした依頼を受けてしまう自身が一番いけないのである。
「期限・金額・制作内容」を最初に取り決める。
制作依頼を契約として考えるならば、最も当り前なことである。
これらを取りきめず、知人のなぁなぁの世界で口約束してしまうと、後からこじれるのは目に見えたことだ。
自分からしっかりと提示して、それが見合わなければやらないというのも一つの選択なのだろう。
近年になって、自分で自分の作品に値段を付けるようになり、ようやくその辺の諦念が芽生えてきた。
そして今日も、自分で決めた期限に追われる日常である(笑)