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競技人口の少ない分野の魅力

「なぜ切絵なのか」

と聞かれることがよくある。

油絵や日本画、水彩画などの他の平面分野の作家には、あまりない質問かもしれない。

なぜ、私が切絵を続けているか一言で云うなら「競技人口が少ないから」である(笑)

 

絵を描くのが好き、という人間は、この世の中に掃いて捨てるほど居て、

その中から美大や芸大に行き「私は油絵画家です」と名乗るようになる人もゴマンと居るだろう。

素人でも、ペンや絵具で絵を描いてSNSで投稿したり、メ○ルカリなどに出す人も、いまや溢れかえっている。

 

たしかに、それらの人たちも、皆それぞれにコンセプトを持っているだろうし、

「この絵は人とは違うんです!」と言われれば、そうなのだろうと思う。

しかし、同じ手法で分類されつくした平面作品の世界に、私は魅力を感じなかった。

 

子供の頃から、人と違う方向を見たがる性格であった。

周りの誰もやらない事をやりたかった。

その上、負けず嫌いで、人に出来る事は必ず自分もそれ以上に出来ると疑わなかった。

そこで、切絵である。

 

たまたま遊びに行った知人の家で、少し年上の女の子が、学校で作ったという切り絵を自慢そうに見せた。

「…これくらい、私の方がうまくできる」

年長者に対して、そんな事を思うような、少々イケスカない子供だった(笑)

「しかも身近な友達は誰も切り絵なんてやらない!人と違うことをするチャンスだ」

間違いなく、私の切絵人生は、この場面から始まった。

 

今では、自称他称問わず、切り絵作家という人口も、随分と増えてしまった。

不思議と、競技人口が増えても、子供時代に感じたあの負けず嫌いは、今はもう感じない。

それは私が大人になったからなのか、はたまた1人の作家として動じなくなったのか。

 

ものづくりには、エネルギーが必要である。

それには、激しい感情が触媒になってくれることもある。

あの頃感じた、負けず嫌いの感情は、最高のエネルギーとしてこれからも私を突き動かし続けて欲しい。